たまには澤田もエンターテイナー

ノンフィクションライター澤田が、このブログではエンターテイナーになった気でいろいろ振る舞います。

『星野君の二塁打』の続きを書いてみた

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ネットで話題になった『星野君の二塁打』。

あたかも日大アメフト部のようなことを道徳の教科書で教えてるっつーことが批判の的になってるけど、澤田はこの『星野君の二塁打』の続きを何となく書いてみた。

まず、『星野君の二塁打』の内容についてはこのメディアから引用。

president.jp

(打てる、きっと打てるぞ!)

星野君は、強くバットをにぎり直した。

(かんとくの指示は、バントだけれど、今は打てそうな気がするんだ。どうしよう……。)

ピッチャーが第一球を投げ込んできた。星野君は反射的に、思いきりバットをふった。

バットの真ん中に当たったボールは、ぐうんとのびて、セカンドとショートの間をあざやかにぬいた。ヒット! ヒット! 二塁打だ。ヒットを打った星野君は、二塁の上に直立して、思わずガッツポーズをとった。この一打が星野君の所属するチームを勝利に導き、市内野球選手権大会出場を決めたのだ。

その翌日も、チームのメンバーは、練習を休まなかった。決められた午後一時に、町のグラウンドに集まって、焼けつくような太陽の下で、かた慣らしのキャッチボールを始めた。

そこへ、かんとくの別府さんが姿を現した、そして、

「みんな、今日は少し話があるんだ。こっちへ来てくれないか。」

と言って、大きなかしの木かげであぐらをかいた。

選手たちは、別府さんの周りに集まり、半円をえがいてすわった。

「みんな、昨日はよくやってくれたね。おかげで、ぼくらのチームは待望の選手権大会に出場できることになった。本当なら心から、『おめでとう。』と言いたいところだが、ぼくにはどうも、それができないんだ。」

別府さんの重々しい口調に、選手たちは、ただごとではなさそうなふんいきを感じた。

別府さんは、ひざの上に横たえたバットを両手でゆっくり回していたが、それを止めて、静かに言葉を続けた。

「ぼくが、このチームのかんとくになる時、君たちは、喜んでぼくをむかえてくれると言った。そこでぼくは、君たちと相談して、チームの約束を決めたんだ。いったん決めた以上は、それを守るのが当然だと思う。そして、試合のときなどに、チームの作戦として決めたことは、絶対に守ってほしいという話もした。君たちは、これにも気持ちよく賛成してくれた。そうしたことを君たちがしっかり守って練習を続けてきたおかげで、ぼくらのチームも、かなり力が付いてきたと思っている。だが、昨日ぼくは、どうしても納得できない経験をしたんだ。」

ここまで聞いた時、星野君はなんとなく

(これは自分のことかな。)

と思った。けれども自分がしかられるわけはないと、思い返した。

(確かにぼくは昨日、バントを命じられたのに、バットをふった。それはチームの約束を破ったことになるかもしれない。しかしその結果、ぼくらのチームが勝ったじゃないか。)

その時別府さんは、ひざの上のバットをコツンと地面に置いた。そしてななめ右前にすわっている星野君の顔を、正面から見た。

「はっきり言おう。ぼくは、昨日の星野君の二塁打が納得できないんだ。バントで岩田君を二塁へ送る。これがあの時チームで決めた作戦だった。星野君は不服らしかったが、とにかくそれを承知した。いったん承知しておきながら、勝手に打って出た。小さく言えば、ぼくとの約束を破り、大きく言えば、チームの輪を乱したことになるんだ。」

「だけど、二塁打を打って、このチームを救ったんですから。」

と、星野君のヒットでホームをふんだ岩田君が、助け船を出した。

「いや、いくら結果がよかったからといって、約束を破ったことに変わりはないんだ。いいか、みんな、野球はただ勝てばいいんじゃないんだよ。健康な体を作ると同時に、団体競技として、協同の精神を養うためのものなんだ。ぎせいの精神の分からない人間は、社会へ出たって、社会をよくすることなんか、とてもできないんだよ。」

別府さんの口調に熱がこもる。そのほおが赤くなるにつれ、星野君の顔からは、血の気が引いていった。選手たちは、みんな、頭を深く垂れてしまった。

「星野君はいい選手だ。おしいと思う。しかし、だからといって、ぼくはチームの約束を破り、輪を乱した者を、そのままにしておくわけにはいかない。」

そこまで聞くと、思わずみんなは顔を上げて、別府さんを見た。星野君だけが、じっとうつむいたまま、石のように動かなかった。

「ぼくは、今度の大会で星野君の出場を禁じたいと思う。そして、しっかりと反省してほしいんだ。そのために、ぼくらは大会で負けるかもしれない。しかし、それはしかたのないことと、思ってもらうよりしようがない。」

星野君はじっと、なみだをこらえていた。

別府さんを中心とした少年選手たちの半円は、しばらく、そのまま動かなかった。

↑これを前提に、澤田が「バタ臭い考え方を持った星野君の叔父さんがやって来た」っつー設定で書いてみました。

ただし、ここで注意事項。以下の文章は、澤田の考え方を反映しているものではありません。あくまでも「そういう考え方を持った新キャラが出てきたら」ということでやります。

だから、「こいつの考え方もおかしい!」という批判は勘弁してね。 

その時である。チームの輪の外側から横切るように、

「ちょっと待ってください」

と、甲高い声が聞こえた。

その声の主は、星野君のお父さんの弟、つまり叔父さんである。叔父さんはたまに星野君のチームの練習を見学しに来ていた。

「別府さん、それは間違っています。野球は犠牲の精神を子供たちに教える競技ではありません。今の発言は取り消してください」

叔父さんはひるむことなく、胸を張ってそう言った。星野君は、

「叔父さん、もういいよ」

と言ったが、

「黙っていなさい」

と、叔父さんは譲らない。

「もう一度言います。今の発言は即刻取り消してください」

すると別府さんは、

「星野君の叔父さん、あなたがそうおっしゃる気持ちは分かります。ですが、星野君の二塁打はチームの輪を乱すものでした。指導者としてそれを許すわけにはいきません」

と、返す。だが叔父さんは取った手をひっくり返すように、

「チームの輪、と別府さんは何度もおっしゃっています。少し文化人類学みたいなことを語ってしまいますが、これは『和をもって貴しとなす』という日本人特有の発想です。ぼくは仕事でシアトルに赴任していた頃、現地の少年野球チームのコーチをしていました。確かにサインを無視された監督はいい気持ちはしませんが、だからといってその後の試合に出場させないということはまずありませんよ」

さらに叔父さんは、

「もちろん、ここでは犠牲バントがよかったのかヒットエンドランがよかったのかを議論するわけではありません。別府さん、あなたは先ほど『小さく言えば、ぼくとの約束を破り、大きく言えば、チームの輪を乱したことになる』とおっしゃいました」

「はい」

「しかし、はっきり言えばそんなことは競技においてまったく意味のないことです。スポーツの目的は、明文化された厳格なルールの中で己の実力を競い合い、勝利を掴むこと。その原理はそのままビジネスに応用できます。シアトルだろうと日本だろうと、親はその理屈を子供に教えたいからスポーツをやらせるはずです。もちろん、我が家も」

「その通りです」

別府さんはそう返すと、

「ですが、星野君はそのルールを破りました」

と、反論した。

「チームにはチームのルールがあります。星野君は自分を犠牲にしてでも、そのルールを守るべきでした。それを破った時の罰は、指導者たる大人が与えてやるべきです」

「ルール? あなたの言うルールとは、内輪の不文律でしょう。和をもって貴しとなす日本人にとっての最優先事項は、確かにあなたの言う通り内輪の不文律です。ですがそれを突き詰めれば、明文化された制約事項よりも文章にない仲間うちの口約束のほうが重要ということになりませんか」

叔父さんは「それに」と付け足し、

「別府さんは『犠牲の精神の分からない人間は、社会へ出たって、社会をよくすることなんか、とてもできないんだよ』ともおっしゃいました。もしシアトルのチームの親御さんが聞いたら、絶句すると思います。シアトル市民にとってのスポーツとは、白人も黒人もアジア人もネイティブアメリカンもスパニッシュも同じルールの下に公平な条件でやるゲームです。ぼくが見た中では、プエルトリコ系の子に『植民地の連中』と言った白人の子が、出場停止になりました。それは彼が、同じ人間を差別したから。アメリカのスポーツチームの大原則は『他人を差別しない』ということです。ぼくやぼくの兄が甥っ子に野球をやらせている理由も同じです。他の子を肌の色や出自で差別する人間になってほしくない。そんなのは人として当然だ。ですが……」

叔父さんは一度歯を強く噛み締め、こう言い放った。

「あなたは『犠牲の精神』というものを第一に教えるつもりでチームの監督をしている。それはスポーツマインドとは別物ではないでしょうか。ぼくは、甥っ子には誰かの犠牲になってほしくはない。自分も他人もハッピーになれる方法を全力で考えろと教えます。それは、同じ年頃の子供がいる別府さんもそうでしょう? 自分の子供を『社会の犠牲』とやらにさせたいのですか? それが名誉だとおっしゃるのですか?」

この時の別府さんは、まるで豆鉄砲を食らった鳩のような顔をしている。叔父さんはそれを察し、最後にこう告げた。

「もし先ほどの発言を取り消していただけないのなら、もう結構です。ぼくは甥っ子をこのチームから退団させて、別のチームを探します。……岩田君、本当にありがとう。甥をかばってくれた君には、心から感謝する。君こそ、ぼくの甥の親友だ」