たまには澤田もエンターテイナー

ノンフィクションライター澤田が、このブログではエンターテイナーになった気でいろいろ振る舞います。

『男はつらいよ』は、多分今の若い子にはウケない

男はつらいよ』は、テキ屋稼業の車寅次郎という男が主人公だ。

寅さんは日本中を旅している。定職に就こうと考えたことはあるけれど、結局就職できずにまたフーテンの寅に戻る。そうして日本中をぐるぐる周り、その旅先で恋をする。

問題は、劇中の寅さんは柴又の人々から「定職に就かないヤクザ者」と認識されていることだ。ちょっと言い過ぎかな? けれど妹のさくらはそうは考えてないとしても、おいちゃんとおばちゃん、あとタコ社長は「寅はカタギじゃない」という考え方だ。

このあたりが、昔と今の発想の違いだ。

もし今、寅さんのような人間がいたら間違いなく人気者になる。それこそスーパーボランティアの尾畠さんのように。WebライターもYouTuberも寅さんを追い駆けるはずだ。無理やり寅さんに取材しようとするライターも現れるかもしれない。

祭りで屋台を出したら、女の子にスマホのカメラで撮影されるんじゃないか。「寅さん見つけた」みたいな感じでTwitterに書かれちまうと思う。

つまり、「定職に就かないフーテン=ロクデナシ、ヤクザ者=あんな人間になっちゃダメ」という昔の発想はもう通用しないっつーことだ。むしろ「定職に就くよりリスク覚悟で自分の好きな生き方を貫く」ほうが今じゃ評価される。

だから今の若い子は、寅さんには大いに共感するけれど彼の家族はあまりに理解のない連中だと捉えるんじゃなかろうか。

寅さんと柴又の実家の間にあった絶妙な距離感は、今の時代では成立しない。

寅さんの生き方に何となく憧れる素振りを見せていた満男は、結局就職した。自分が「寅さん」にならなかった。いや、そうなる前に渥美清が亡くなったということもあるのかもしれない。けれど、もし満男が現代の20代だったら、宮仕えを辞めて寅さんと同じフーテンになる可能性は十分にある。ただし稼業は現代に即したリモートワーカー、言い換えればノマドとして働きながら旅をするという形になるんじゃないか。そういう人、澤田の知り合いにもいる。

男はつらいよ』の新作が来年公開されるそうだ。

山田洋次監督が「昔のままの寅さん(というより柴又の人々)」を現代に無理やり移植するような映画を作っていたとしたら、多分失敗する。渥美清が生きていた頃と今とでは、大衆の意識が全然違うということを山田監督は理解するべきだ。

まあでも、そんなことは重々承知なんだろうな。澤田の予想は、寅さんじゃなく吉岡秀隆演じる満男が事実上の主役になるんじゃないかと思う。だって、そういうシナリオのほうが自然だもんね。